文:いずみ
年金の繰り上げ受給を決めたのは、心と生活に余裕を持ちたかったからです。
退職後、やりたいと思える仕事が、なかなか見つかりませんでした。仕事をすること自体をやめたいわけではありません。でも、やりたいことも、今の自分にやれることも、なかなか決められずにいました。
収入があれば、もう少しゆとりを持って次の仕事を探せるのではないか。自分がやりたいことを見つける余裕も持てるのではないか。
そう考えるようになりました。
ただ、年金を早く受け取れば、その分、減額されます。そのことが気になり、すぐには決められませんでした。
今回は、私が調べ、迷いながら、繰り上げ受給を選ぶまでのことを書きます。
焦って、気の進まない仕事を選びたくなかった
会社を辞めたのは、2025年3月です。定年後、引き継ぎのための4か月の勤務を終えて、長く働いてきた職場を離れました。
退職後は、失業給付を受け、貯金も使いながら暮らしてきました。
次の仕事を探していても、「これをやりたい」と思える仕事には、なかなか出会えませんでした。自分が何をしたいのか、何ができるのかも、すぐに答えが出るものではありませんでした。
そんなとき、ハローワークで職業訓練の話を聞き、応募しました。2025年10月から2026年2月にかけて、4か月、Webクリエーターの勉強に通いました。この話は、別の記事で改めて書きたいと思っています。
収入が必要だからと焦って、気の進まない仕事を選ぶ。そして、モヤモヤした気持ちのまま毎日を過ごす。それは嫌でした。
年金という収入があれば、もう少し落ち着いて考えられるかもしれない。次の仕事を探すことにも、やりたいことを見つけることにも、心の余裕を持てるかもしれないと思いました。
YouTubeを50本以上見て、自分なりに調べました
繰り上げ受給について、YouTubeで50本以上の動画を見ました。インターネットでも調べました。
調べるうちに、メリットとデメリットを、自分なりに把握できるようになりました。
減額されることは、もちろん気になりました。それでも、繰り上げ受給が必ず「損」と決まるわけではなく、何を大切にするか、どう受け止めるかによって考え方が変わるのだと思うようになりました。
将来のお金も大切です。でも、私にとっては、今が大切でした。
今、焦って気の進まない仕事をするよりも、収入を確保して、ゆとりを持って自分のこれからを考えたい。その気持ちが、私の中で大きくなりました。
将来の受取総額と、今の自分にとっての時間
調べる中で、繰り上げて受け取る場合と、繰り上げずに受け取る場合の総額が逆転する時期、いわゆる「損益分岐点」のことも知りました。
私が調べた情報では、「82歳くらい」という説明がありました。
※総額が逆転する時期は、受給開始時期や年金の内訳などで異なります。「82歳」は誰にでも当てはまる年齢ではありません。ここでは、私が調べる中で考えるきっかけになった数字として書いています。
そのころの自分は、どんなふうに暮らしているのだろう。そもそも、そこまで生きているかどうかも分かりません。
生きていたとしても、今の私と同じだけの体力や食欲があるだろうか。旅行をしたり、おいしいものを食べたり、今と同じように楽しめるだろうか。
私は、そんなことを考えました。
将来、受け取った年金の総額に差がつくことも大切です。それと一緒に、元気に動ける今、そのお金をどう使えるかも考えたいと思いました。
これは、私個人の考え方です。将来の安心をより大切にしたい人もいるでしょうし、同じ年齢でも体力や暮らしの状況は違います。
受け取り始める時期を選べる制度を、私は、自分にとって大切なものを考える選択肢として受け止めました。
年金を受け取りながら働くことも、調べてみました
以前、「年金をもらいながら働くと、年金が減らされてしまうから損をする」という話を聞いたことがありました。
その話が気になり、年金と給与の関係についても調べました。
すると、働きながら受け取る老齢厚生年金の支給停止には基準があり、その基準額を引き上げる制度改正があることを知りました。
「働いたら必ず年金が減る」ということではない。そのことが分かると、気持ちが楽になりました。
私がこれから探す仕事の給与を考えれば、支給停止への心配ばかりを先にしなくてもよいのではないか。自分の働き方と年金を合わせて考えればよいのだと思えるようになりました。
年金を受け取ることと、仕事を探すこと。その両方を考えながら、自分のこれからを選んでいきたいと思いました。
※現在の制度では、2026年4月から、在職老齢年金の基準額は月65万円です。給与だけの限度額ではなく、賞与を含めた賃金の月額換算と老齢厚生年金を合わせて判定します。詳しくは末尾の制度の説明をご覧ください。
知ることで、自分なりに決められるようになりました
調べる前は、年金が減ることや、働いたときにどうなるのかが気になっていました。
でも、年金と給与について知識を得ることで、怖さが和らいでいきました。自分なりに考えて、決められるようになったのです。
知ることは大切だと思いました。
減額されることを分かったうえで、私にとって今、何が大切なのかを考えました。
焦って仕事を決めるよりも、心に余裕を持って次を探したい。生活を支える収入を確保しながら、やりたいこと、やれることを見つけたい。
そう考えて、2026年2月に繰り上げ受給の手続きをしました。初めての振り込みは、4月でした。
初めての振り込みは、純粋にうれしかった
初めて年金が振り込まれたときは、純粋にうれしかったです。
今まで自分が払ってきたものの成果、対価なのだと思いました。
「もらって当たり前」という気持ちと、「今まで頑張って払ってきてよかったな」という気持ち。その両方がありました。
心と生活の余裕のために、選びました
私が繰り上げ受給を選んだのは、心と生活の余裕のためです。
同じ選択が、誰にとってもよいとは思っていません。それぞれの暮らしや気持ちに合わせて考えることなのだと思います。私の場合は、今の自分が落ち着いてこれからを考えられることを、大切にしたかったのです。
年金の繰り上げ受給を考える方へ――制度の確認
ここからは私の体験とは分けて、日本年金機構の案内をもとに制度の要点をまとめます。確認日は2026年10月5日です。
繰り上げによる減額は、生涯続きます
老齢年金は原則65歳からですが、希望すれば60歳から65歳になる前に繰り上げて受け取れます。減額率は生年月日や請求時期などで異なり、減額は生涯続きます。請求後に取り消すこともできません。
国民年金の任意加入・追納や、事後重症などによる障害年金の請求にも影響します。減額率だけでなく、公式案内の注意点全体を確認してください。
受取総額が逆転する時期は、個別に確認します
日本年金機構の「老齢年金の繰上げ請求についてのご確認」には、総受給額が逆転する年月を個別に確認する欄があります。今後の年金加入状況などによって、この時期が変わる場合もあります。誰にでも共通する年齢を、そのまま自分の数字と考えないようにしてください。
働きながら受け取る場合の基準は、給与だけではありません
厚生年金保険に加入しながら老齢厚生年金を受け取る場合、賃金と年金額に応じて、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になることがあります。
2026年度の基準額は、2026年4月から月65万円です。2025年度の月51万円から引き上げられました。判定に使うのは、次の二つを合わせた額です。
- 老齢厚生年金の基本月額(加給年金額を除く年額の12分の1)。
- 総報酬月額相当額(標準報酬月額と、直近1年間の標準賞与額の12分の1の合計)。
この合計が基準額を超えると、超えた額の半分が老齢厚生年金から支給停止されます。老齢基礎年金は、この調整の対象にはなりません。基準額は毎年度改定されます。
繰り上げによる生涯の減額と、働いている間の収入による支給停止は、別の仕組みです。
65歳前の老齢厚生年金には、失業給付などとの調整もあります。自分の年金額や他の給付への影響については、年金事務所などで確認してください。
参考:日本年金機構「失業給付・高年齢雇用継続給付を受けるとき」、「65歳前に年金を繰り上げて受け取りたいとき」